四万温泉

小説『模倣の殺意』（中町 信　著）
「群馬県の四万温泉で書き上げたものなんですがね、
環境を変えて書くのもいいもんですね。」.....

登場人物、ルポライター坂井氏による
このようなたわいもない文中の言葉に
「鼻の粘膜を優しく刺激するパウダー状の初雪の香り」、
まだ少し湿っぽくそうすぐには積もりそうもない「粉雪を
ふりかけた村」の情景を勝手に頭の中に思い描き、
そそくさとスタッドレスタイヤに履き替え現地に向った。

旅館　やまぐち館
到着後ロビーにて女将の紙芝居『雪女』を鑑賞後、
痴虫（群馬の酒）を飲み干し、そいつの気配をずっしり
と肩に感じながら露天風呂への扉を開ける。

鼻の粘膜にツンと刺すような初雪の香りと、
川の流れる音すら凍らせてしまいそうな
冷えた静けさが、染まりきった汚れ都会派の心身を
ゆっくりと湯に足を運ばせてくれ、湯銭はじんわりと
全身を浸からせながら体の内側のこびりついた
寒色系のヘドロを秒単位で吐き出させ、
平常な落ち着きを取り戻してくれる。


2013年　12月